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名古屋高等裁判所 平成2年(ネ)174号 判決

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 岩本雅郎

同 伊藤邦彦

同 白浜重人

被控訴人 アーバン投資顧問株式会社 (旧商号・株式会社赤坂グループ事務所)

右代表者代表取締役 樋口恵市

〈ほか一名〉

主文

一  原判決中被控訴人アーバン投資顧問株式会社に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人アーバン投資顧問株式会社は控訴人に対し金五五万円及び内金五〇万円に対する昭和六〇年六月八日より、内金五万円に対する本判決送達の日の翌日より各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人の被控訴人アーバン投資顧問株式会社に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人の被控訴人樋口恵市に対する本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用のうち、控訴人と被控訴人アーバン投資顧問株式会社との間に生じた分は、第一、二審を通じて七分し、その六を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人樋口恵市との間に生じた控訴費用は、控訴人の負担とする。

四  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人らは各自控訴人に対し、金三六七万円及び内金三〇〇万円に対する被控訴人アーバン投資顧問株式会社は昭和六〇年六月八日より、被控訴人樋口恵市は同月一三日より、内金六七万円に対する本判決送達の日の翌日より各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、

被控訴人らはいずれも、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に訂正・付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の陳述)

1  原判決六枚目表五、六行目の「あげることは不可能である。」を「あげることの合理的な根拠がない。」に改める。

2  原判決七枚目裏七行目の「右のような」の前に「①」を加え、同八枚目表二行目の「基づくものである。」を「基づくものであり、また、②井戸田らが投資顧問業者として誠実なアドバイスをすべき善管注意義務に違反し、前記のような勧誘の言葉を使用して会費を徴収することは、会費目的で投資予定額及び平均収益率と比較して多額の金銭を利得する目的が会社に存在し、その上控訴人の財産管理能力が低下していることも考えると、背任罪もしくは背任罪的違法性に該当するというべきであり、さらに、③井戸田らは、前記のとおり、あたかも赤坂グループ事務所は株価をつり上げたり相場を操縦したりして、会員になったり会員のランクを上げた人には、確実に儲けさせるかの如く説明したところ、控訴人は財産管理能力等が低下していたため、右井戸田らの言葉が虚偽であることを見抜けず、右井戸田らの言葉を真実と信じて、次々に会費名目で合計金二五〇万円を支払ったが、右のように、井戸田らが控訴人の財産管理能力の低下に乗じる行為は、準詐欺罪もしくは準詐欺罪的な違法性に該当する。」に改める。

3  原判決九枚目表九、一〇行目の「提供することは不可能であるから、」を「提供できることの合理的な根拠の説明がないから、」に、同裏一行目の「区分することは不可能である。」を「区分することには合理的な根拠がない。」に、同一〇枚目裏二、三行目の「確保することは不可能であるといわざるを得ず、」を「確保できることの合理的な根拠の説明がなく、」に、同一一枚目裏四、五行目の「不可能である。」を「合理的な根拠の説明ができない。」に、同六、七行目の「不可能に近く、」を「合理的な根拠を説明することができず、」に、同九、一〇行目の「不可能に近い」を「合理的な根拠を説明することができない」に、同一二枚目表一行目の「不可能であり、」を「合理的な根拠がないことになり、」に、同七行目の「不可能となる。」を「合理的な根拠がないことになる。」に、同九、一〇行目の「実現不可能な」を「実現への合理的な根拠を欠く」にそれぞれ改める。

4  原判決一三枚目表八行目と九行目の間に、行を変えて次のとおり加える。

「しかも、右に指摘した違法行為の類型を総合的に判断すると、全体として詐欺罪もしくは詐欺罪的な営業活動が浮かび上がってくる。」

5  原判決二二枚目表五、六行目の「達成することが不可能であって、」を「達成できることの合理的な根拠の説明がなく、」に改める。

(証拠関係)《省略》

理由

一  当裁判所は、控訴人の被控訴人アーバン投資顧問株式会社に対する本訴請求は、主文第一項1に判示した限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきであり、一方、控訴人の被控訴人樋口恵市に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加・訂正する外、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決二五枚目裏八行目の「時事通信」の次に「株価」を加え、同一〇行目の「複合」を「複写機・」に改め、同二六枚目表一行目の「週刊信用」の次に「取引」を加え、同一、二行目の「ポートホリオ」を「ポートフォリオ」に改め、同裏三行目の「株価動向」の次に「分析」を加える。

2  原判決二七枚目表八行目の「認められる」の次に「甲第三五号証の一乃至四、」を、同一〇行目の「原告」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加え、同裏二、三行目の「昭和五六、七年ごろ」を「昭和五七、八年頃」に、同二八枚目裏七行目の「二〇〇〇株」を「二〇一九株」にそれぞれ改め、同二九枚目表一行目の「オイルシール、」を削り、同八行目の「クラリオン」の次に「、オイルシール各」を、同八、九行目の「一〇〇〇株」の次に「、郷鉄工二〇一九株、三洋電機三〇〇〇株」をそれぞれ加え、同裏九行目の「二七日」を「二八日」に、同三〇枚目表四行目の「期間を三か月延長」を「特別二年会員に」に、同六行目の「二〇〇〇株」を「七〇〇〇株」に、同末行から同裏一行目にかけての「同月二六日」を「同年四月一日」に、同二行目の「五〇〇〇株」を「八〇〇〇株」にそれぞれ改め、同三一枚目裏一行目の「甲第二一号証、」の次に「原審及び当審における」を加え、同二行目の「後記のとおり、」を削る。

3  原判決三二枚目表八行目の「更に」から同九行目の「延長料として、」までを削り、同三三枚目表末行から同裏一行目にかけての「確保することが不可能なほど」を「確保することに合理的に根拠がないほど」に、同四、五行目の「実現が不可能に近く、」を「実現が合理的な根拠によって説明することができず、」にそれぞれ改め、同三四枚目裏四行目の「事実であって、」の次に「常に値下がりのリスクを伴いながらも、」を加え、同五行目の「一〇六パーセント」を「八六パーセント」に改め、同三五枚目表六行目の「これもまた、」の次に「投資意欲の盛んな株式市場を前提にすれば、」を、同七行目の「数字ではないから、」の次に「被控訴会社の経営方針に従っても、」を、同裏末行の「甲第二一号証、」の次に「原審及び当審における」をそれぞれ加え、同三六枚目裏末行の「、ついで」から同三七枚目表二行目の「勧められ」までを削り、同じ行の「甲第二一号証、」の次に「原審及び当審における」を加える。

4  原判決三七枚目裏一〇行目と末行の間に、行を変えて次のとおり加える。

「また、控訴人は、請求原因4(一)ないし(五)を総合的に判断すれば、全体として違法な被控訴会社の営業活動が浮かび上がってくる旨主張する。

しかしながら、前記認定判断のとおり、被控訴会社は、会員をランク分けして、そのランクに従い顧問料を漸増させる方式を採用し、控訴人に対しては、短期間のうちに順次上位の会員になることを勧誘して、最終的に合計金二五〇万円を控訴人から徴収しているのであるが、後に判示するように、会員期間の延長名下に金五〇万円を徴収した場合を除いて、それぞれのランクに従い、実現の可能性について必ずしも根拠がないとはいえない利益目標を目指して、株式投資に関する指導助言をする意思及び能力を有し、また実際にもそれに見合う指導助言をしていたのであるから、被控訴会社の営業活動そのものが、全体として詐欺ないし詐欺的行為の違法性を帯びるとまでいうことはできない。

したがって、控訴人の右主張は、採用できない。」

5  原判決三七枚目裏末行と同三八枚目表一行目の間に、行を変えて次のとおり加える。

「さらに、控訴人は、井戸田らの行為は、背任罪もしくは背任罪的行為、または準詐欺罪もしくは準詐欺罪的行為に該当する旨主張する。

しかしながら、前記認定判断のとおり、会員期間の延長名下に金五〇万円を徴収した場合を除き、井戸田らは、もっぱら自己または被控訴会社の利益を図り、または控訴人に損害を与える目的で、控訴人から顧問料として金員を徴収したということはできないから、右井戸田らの行為が背任罪もしくは背任罪的行為に該当するとはいえないし、また、前記認定事実によると、控訴人が、当時短期間のうちに被控訴会社に対し、顧問料として合計金二〇〇万円を支払い、その外、シー・アイ・シー・ジャパンでの円の先物取引や、鹿島商事でのゴルフ会員権の購入によって、被害を受けたことは、通常人を標準とする限り、異常な行動であるといえないわけではないが、《証拠省略》からすると、控訴人は当時、手持資金の運用によって、高収益の利殖を企図していたことが窺えるものの、心神耗弱の状態にあったとまでは認められないのみならず、井戸田らも、控訴人のそのような状態に乗じて、控訴人から顧問料を徴収したという事実も認められないから、控訴人らの右各主張も、採用できない。

もっとも、前示のとおり、控訴人は昭和六〇年三月一日被控訴会社に対し、クラウン会員の期間延長料として金五〇万円を支払っているところ、《証拠省略》によると、クラウン会員の契約期間は一年であって、被控訴会社と顧客の合意により更新はできるものの、金五〇万円の顧問料でさらに契約期間を一年間延長することができる旨の約款は存在しないこと、それに、控訴人は同年二月一六日にAGO会員になったばかりで、クラウン会員になったのも同月二二日であり、《証拠省略》によると、その実績が現実化していない同年三月一日に、控訴人が井戸田及び渡辺に対し、同人らの指導助言に不服を述べたところ、渡辺が「迷惑をかけたので特別二年会員になってもらう」と申し向けて、その期間延長料として金五〇万円の支払いを要求したことが認められ、右事実によると、渡辺は、控訴人が株式投資によって確実に利益を挙げたいとの一心でいる弱みにつけこみ、控訴人から期間延長料名下に、被控訴会社の約款では認められていない金員を支払わせる意図の下に、右言動を弄して金五〇万円を徴収したということができ、右渡辺の行為は、投資顧問業の営業活動を逸脱した違法な行為と評価することができる。そして、渡辺の右行為が被控訴会社の事業の執行としてなされたことは明らかであるから、被控訴会社は、渡辺の右行為により控訴人が蒙った損害金五〇万円を賠償すべきである。

さらに、控訴人は、被控訴会社の違法行為により、精神的苦痛を受けたことを理由に、慰謝料の請求をするが、本件全証拠によっても、控訴人が、渡辺の違法行為により右金五〇万円の損害を蒙ったことについて、慰謝料の支払いをもって慰謝すべきほどの精神的苦痛を受けたとの事実を認めることができない。したがって、控訴人の慰謝料請求の主張は、失当である。

なお、前記金五〇万円の損害の回復に要した弁護士費用は、本件事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌すると、金五万円をもって相当とすべきである。」

二  そうすると、控訴人の被控訴会社に対する本訴請求は、不法行為による損害賠償として金五五万円、及び内金五〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年六月八日より、内金五万円に対する本判決送達の日の翌日より各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきであり、一方、控訴人の被控訴人樋口に対する本訴請求は、その不法行為につき立証がないから、失当としてこれを棄却すべきである。

よって、原判決中これと一部異なる被控訴会社に関する部分を右の趣旨に変更し、控訴人の被控訴人樋口に対する本件控訴を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条前段、九五条本文、九二条本文、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 水野祐一 喜多村治雄)

〈以下省略〉

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